さて、前回ママから指摘のあった「半導体」→「電子回路」へ移っていったという話ですが、ママがそう仕向けたといってもおかしくないのに、とばっちりのような形でママにすねられてしまったセミオ君。それでも何とか、ママの心をつなぎとめようとしています。
セミオ君はどうやってまた、半導体の話にもっていこうか、考えています。
セミオ君、とりあえず何か思いついたようです。でも今日は一日そのことを考えていたので、仕事の方はさっぱりで、問題が解決できていないようです。
こんなことで日本の半導体は大丈夫でしょうか?
エピタキシャルウェハーの品質
「カラン、コロン」
ママは何となく冷たい対応です。いくら何でもお客さんにこの対応はないでしょう。やっぱりママはセミオ君に対する態度は特別な感じがします。
ママは少し気をよくしたようです。
ママはやられた、という顔をしましたが
エピタキシャルウェハー製造のシーケンス
エピタキシャルウェハーの品質を紹介する前に、製造のシーケンスを紹介しておきましょう。
シーケンスとは
シーケンスとは、事前に準備された工程で処理がすすむことです。例えば、全自動洗濯機を考えてみます。洗濯機の中に洗濯ものと洗剤、柔軟剤を入れて、スタートボタンを押します。
そうすると、自動的に水がでてきて、洗剤が投入され、洗いが終わってすすぎが入ると柔軟剤が投入されます。その後すすぎが完了すると、脱水の工程が始まり、終わったら、音を鳴らしてお知らせする、あの一連の動きをシーケンスといいます。
エピタキシャル成長をするのも同じです。ウェハーを装填したら、スタートボタンを押します。そうするとあとは装置が勝手にエピタキシャルウェハーを作ってくれるのです。
エピタキシャル成長のシーケンス
上図はエピシーケンスの一例です。縦軸が温度、横軸が時間です。最初はウェハーの装填ですが、そこは省略しています。また、ウェハー装填後はエピタキシャル炉内に残っている、空気を追い出すため、炉の中を窒素に置き換えます。(参照:半導体製造における危険な事故)
窒素のままでは、作れないので次は水素にガスを入れ替えます。入れ替わったかどうかは水素検知器などがあるわけでなく、エピタキシャル炉の大きさと、流した水素の量で決めていきます。ガス漏れなどがなければ、決まった時間で動かし続けることでうまくいきます。
ウェハーにはどうしても自然についてしまう薄い酸化膜があります。これを自然酸化膜といいますが、いわゆるプライムウェハーの上に余計なものをなしで結晶成長させたいので、水素をエピタキシャル成長温度よりも高い温度でアニールします。
アニールとは日本語では、焼きなましのことです。半導体製造の世界ではよく使われる言葉で、この場合は自然酸化膜の除去目的で行います。
次の工程では、HCLを使ってウェハーの表面をさらに磨きます。ただし、HCLはあまり使いすぎると削りすぎてしまう欠点があります。また、HCLの純度に問題があったり、パターン付きウェハー(別の機会に紹介します)にエピタキシャル成長をするときに、異常を起こすこともあります。
その後、温度をエピタキシャル成長の温度に下げて、もう一度水素の雰囲気にします。これは、残留HCLを追い出すことも目的の一つです。
温度が下がり、残留HCLが流れたらシリコンガス、ドーパントガスを流し、エピタキシャル成長を行います。所定の厚みに達したら、再び水素に戻し、温度を下げて、最後は窒素にガスを入れ替えます。
これは、以前紹介した、エピタキシャル成長炉のシリンダー型、縦型といったいわば旧タイプの場合のシーケンスです。(参照:半導体 エピタキシャル成長装置~シリコンウェハーの作り方)
比較的新しい枚葉式と呼ばれるタイプでは少し変わってきますが、結晶成長に関わる部分の考え方は同じです。
エピタキシャルウェハーの問題点
エピタキシャル成長後の品質確認事項としては、目視検査、エピタキシャル層の厚さおよび抵抗率の確認、金属汚染レベルの確認などが主に行われます。
エピタキシャル成長は基本的に優れた結晶ができますが、残念ながら完璧ではありません。エピタキシャルウェハーには以下の欠陥が発生します。
1.結晶欠陥 |
2.不純物(金属汚染) |
3.オートドーピング |
4.パターン変形 |
5.その他 |
以下にそれぞれについて紹介していきます。
1.結晶欠陥 結晶欠陥(エピタキシャルは結晶を成長させるため)としては突起、ピット、積層欠陥、転移、析出物などがあります。特にエピタキシャル成長特有でデバイス特性(デバイスとは、パソコンやスマホなどのことをいいます)に影響がありそうな突起、ヒロック、積層欠陥について紹介します。
1-1 突起 突起とは、エピタキシャル成長前もしくは成長中に異物がシリコンウェハーに付着したのが原因でおきます。フォルムとしては、異物がシリコンウェハー表面についていたり、異物起因の異常成長です。
エピタキシャル成長完了後に検査を行いますが、暗室で集光灯と呼ばれるシリコンウェハーを目視で検査するもので見ると、キラキラ光って見えます。ですから小さいものを「輝点」といった呼称を使うところもあるようです。
異物としては、エピタキシャル成長時にできた副生成物や、人が持ち込んだ小さなごみ、皮膚の破片などが考えられます。エピタキシャル成長炉はもちろんクリーンルームというゴミがほとんどない部屋で作られますが、ゴミをゼロにするのはかなりの難事業です。
クリーンルーム内の作業を全自動化しなければ、それは不可能かもしれません。事実、核メーカーはそれを目指していると思います。
1-2.ヒロック ヒロックとは日本語で丘の意味です。突起と同じで異物が原因と言われていますが、転移と積層欠陥といった大きな結晶の欠陥を伴わない場合が多いようです。ですからヒロックの欠陥の核としては、微小な異物ではないか、と考えられています。
1-3.積層欠陥 この欠陥は結晶の成長過程でおきることから、GSF(Grown in stacking fault)と呼ばれています。stckingの意味はそのまま積み重ねという意味です。
製造現場ではよく「SF」と呼んでいます。それを顕微鏡で確認すると、いわゆる’錐’の形をしています。
’錐’の形は結晶方位によって変わります。たとえば方位が(1,0,0)の場合は四角錐、(1,1,1)の場合は三角錐です。(参照:半導体 エピタキシャル結晶成長とは~シリコンウェハーの作り方)発生原因は様々で、汚染、異物、あるいはプライムウェハーの機械的なゆがみの可能性もあります。
ですから、エピタキシャル成長を行うシーケンス内容(温度や時間)とプライムウェハーと相性のようなことでも発生することがあります。
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