さて前回までのお話で、エピタキシャルというちょっと聞きなれない言葉がでてきました。
昨日の話では、上に配列するとか、なんとか言っていたなぁとママは思っています。しかし文系のママにはEPIやTAXISという単語にはなじみがありません。
今日もし、セミオ君かミツオ君のどちらかが来たら、そこから突っ込んでいきたいと考えていました。
結晶用語
しかし今日に限ってだれも来ません。ママは仕方なく自分でネット検索することにしました。
調べていくうちにエピタキシャルとはエピタキシーの形容詞のようなものではないか、と気づきました。そこで今度はエピタキシーを調べると結晶用語であることがわかりました。
次にママは結晶用語のサイトで「EPITAXY」という言葉を発見し、大喜びです。しかしそこにはまた変なことが書かれていました。
ホスト、ゲスト相が異種か同種か、によってヘテロエピタキシー、ホモエピタキシーと呼んでいる
ママはその手の単語には敏感なようです。
同じか違うか
ママが単語に執着してちょっと気を抜いていると
「カラン、コロン」
とお客さんが来たようです。
ママは続きはミツオ君の方がいいのでは、と考えていたようですが、仕方ないですね。
ママは先日聞いたことを簡単にセミオ君に話し、また自分で調べたことも話しました。また、エピタキシーについて話してみましたが、セミオ君は
ママはちょっとがっかりした表情で、
ホモとヘテロ。ホモは聞いたことがある人は多いと思いますが、ヘテロはあまり認知度が高くないかもしれませんね。どちらももとはギリシャ語由来の接頭語です。それぞれが対義語になります。逆の意味ですね。
ホモセクシュアルというのがありますが、意味は同性愛ですね。異性愛はヘテロセクシャルといいます。
この二つの言葉は遺伝子の話をするときにも使われますし、もちろん半導体の場合にも使われるのです。ホモエピタキシャルとは、前回お話したとおり、元の結晶と同じ結晶方位に倣って成長していく結晶成長をいいます。(参照:半導体 シリコンウェハーの作り方4-1)
特徴としては同じように成長していくので、欠陥の少ない結晶成長が見込まれます。これに対してヘテロエピタキシャルの場合は格子の違いが少なければ、良質なものが作れますが、差が大きいとミスフィットと呼ばれる結晶欠陥が起きやすくなります。
もうひとつ。ゲスト相とホスト相も説明しておきましょう。ゲストはお客、ホストは主催者ですね。つまりもとになる結晶の相がホスト、新たに成長していく結晶の相をゲストといいます。
どのように作るか
結晶の成長の課程
シリコンウェハーの表面は、ある程度の大きさを持ったファセット(平面)、平面の端であるステップ(段差)、さらにステップ同士が交差してできるキンク(凹凸)があります。平らに見えても結構でこぼこがあります。
ますは基板表面へのシリコン原子の吸着が起きるのですが、すぐに結合するわけではなく、表面を移動(マイグレーション)します。また、表面に吸着した原子は再び離れてしまうことがあります。
表面に吸着し、離れなかった原子はファセット、ステップからキンクへと移動し、停止します。キンクはより安定した場所です。これを繰り返して結晶は成長していきます。
シリコン原子はどのように供給されるか
結晶の成長は上記にのようにおこっていきますが、では気相における原子の供給はどのように行われるのでしょうか。これは境界層の考え方で説明が可能です。ただし、この場合はあくまで理想的な状態です。
境界層について説明します。これは別に半導体用語でも何でもありません。海面や大気にもよく使われる概念です。
一見さらさらとした物体にも多少の粘り気があります。例えば水が流れているところに板をおくと表面が濡れてしまいます。これは板の上に水が粘りついたといえます。板の上の水の速度はゼロです。
ところが、板から離れるにつれて水の流れは一定の速度になります。一定の速度になるまでの流速が急に変化する層を境界層と言います。
ガスが均一濃度で理想的な層流(層流とは一方向に流れる、ということです)で原料ガスが流れている領域とシリコンウェハー表面の影響を受けて流速が徐々に変化していく領域を分けた考え方です。
また、シリコンウェハーに対し垂直方向のガスの流れはなく、拡散によってのみシリコンウェハーに運ばれてくる、と仮定します。
上図はシリコンウェハー上で理想的に起きていると仮定した場合のガスの流れの図です。
ガスが図の左側から導入されるとウェハーの表面にあたります。あたった最初のところは抵抗がありますから流速が落ちますので境界層が薄くなります。図でのシリコンウェハーの奥に向かっていくと境界層は厚くなっていきます。
境界層が薄い方が、ガスの原料をより多く供給できるので、時間当たりの結晶成長速度は大きくなります。
従って、ガスの流速をあげることによって境界層を薄くしてやれば、時間当たりの結晶成長は大きくなる、ということになります。
成長が早ければ、製造の時間短縮になっていいこともありますが、結晶の品質に問題が出ることもあるので、早ければいい、ということにはなりません。
エピタキシャル成長に使用するシリコン系の原料ガスはSIHCL3(トリクロロシラン)を例にエピ結晶成長時に起きている反応式は
SIHCL3+H2→SI+3HCL
です。エピタキシャル成長は基本的に水素還元法という方法を使います。反応炉には原料ガスのほか、水素も使用されます。SIHCL3(トリクロロシラン)についてはこちら(半導体製造には危険がいっぱい)を参照ください。
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