前回はエピタキシャル成長が具体的に行われているのか、を紹介してきました。
今回はなぜこの技術が必要だったのか、あるいはどのように発展してきたのか、その歴史について紹介していきます。
エピタキシャルの歴史
ママは独り言をつぶやいています。仕込みをしながら、独り言をいいだすとは、ママも相当なものです。けがをしなければいいのですが・・
やってしまったようです。
ママはハッとした表情になりました。
エピタキシャルの歴史
いつもの時刻に開店したクラブセミコン。予想通りの人がやってきました。
ママは先日セミオ君からきいたことを話して聞かせました。
エピタキシャルの技術を最初に使ったのは有名なベル研究所です。ベル研究所といえば、電話の発明ですよね。そして今では当たり前ですが、電話は遠距離の人と話せることが必要です。
しかし、電波とか電気は距離が遠いと必ず弱くなります。ですから、時折力を与えねばなりません。そのための信号増幅を真空管でやっていました。しかし、真空管は故障が多く、そこでトランジスタが誕生することになりました。(参照:トランジスタの誕生)
しかし、最初の点接触型トランジスタは、効率もよくないし、作り込むのが難しかったのです。その後、ショックレーさんが接合型を考えました。
しかし、最初のころの接合型トランジスタでは、高周波で良い特性(増幅率)を上げるのは困難でした。それは、高周波でもトランジスタが効率よく働くためには、コレクタ層には低抵抗層の上に高抵抗層があるような二重構造が必要になります。(理由は後述します)
抵抗が低い領域に高い抵抗の領域を作るには、拡散の技術でできないこともありませんが、かなり困難です。(参照:半導体 シリコンウェハーの作り方3.1 熱拡散)
それをできるようにしたのがエピタキシャルです。
また、チョクラルスキー法(参照:半導体 シリコンへの道)と比べて、低温で成長が可能なこと、薄膜だが、希望の厚みの結晶を作ることができることなど、半導体製造には有利な面も多くあります。
ベル研究所では、四塩化ケイ素(参照:半導体製造には危険がいっぱい)ガスを使用して水素還元法を使用して行われました。この時に作成したのがメサ型と言われるトランジスタでした。化学反応式は以下のようになります。
SICL4+2H2→SI+4HCL
エピタキシャル技術はゲルマニウムでもからシリコンでも可能ですが、シリコンの方が半導体の特性がよい上に、温度変化に強い、という利点もあります。ゲルマニウムは入手が難しい点もあり、シリコンの方が材料の調達も含めてよかった、ということになります。
そののち、モノシランやトリクロロシラン(参照:半導体製造には危険がいっぱい)を熱分解して結晶成長させる技術も開発されました。
次は具体的にどうようにエピタキシャル成長が利用されているかを見てみます。
トランジスタとエピタキシャル
エピタキシャル成長の有効例として、バイポーラトランジスタを見てみます。バイポーラトランジスタについてはこちらを参照ください。(半導体 トランジスタの誕生)
それまでのトランジスタの製造は
1.N型シリコンにボロンを拡散させます。そうすると、N型シリコンの上にP型の層がしみこむようにできます。
2.酸化炉に入れて密封、水蒸気を送り込み、シリコン上に酸化膜を作ります。その酸化膜に一部に穴をあけて、再びN型のガス(リン)を拡散させます。
工程および出来上がったもの断面図は以下のようになります。
下の右端が最終形です。酸化膜の下にNPN構造ができています。トランジスタができることは増幅とスイッチングですが、ここでは増幅に焦点を当てて考えます。増幅とはベースに流れる電流に対して、コレクタに流れる電流がどれくらい増えるか、ということです。
コレクタ電流を効率よく出すためには、基板(コレクタになる部分)の抵抗が低い方がよく(不純物が多い方がいい)、その上に低濃度(不純物が少ない)結晶を作ることができればよいのです。
上図ではコレクタ側が大きな領域をしめています。実際に必要なのは、接合の近くなので、あとは不必要な部分ですが、電圧耐性のために比較的高抵抗率(不純物の濃度が低い)の結晶を用いているので特性の低下は避けられなかったのです。
その不必要な部分を半導体結晶に置き換え、コレクタ層の必要な部分を薄膜の結晶をつくることができるのがエピタキシャル成長です。
上図はプレーナ型と呼ばれるトランジスタの構造図です。コレクタの部分が低抵抗領域で、その上にエピタキシャルの高抵抗領域があります。
n+とは、nドーパントの不純物量が多いことです。不純物が多いので、抵抗は低くなります。この上にエピタキシャル成長を行います。低抵抗層の上に高抵抗層がエピタキシャル成長で作られています。
熱拡散のような方法では、上図のような関係を制御性良く作り込むことは困難ですが、エピタキシャル成長は、成長中にドーパントのガスを流すことによりシリコン結晶中の抵抗濃度をコントロールできるため、狙った抵抗値を作り込むことが可能なのです。
エピタキシャル結晶の特徴
他にもエピタキシャルの特徴があります。エピタキシャルでできる結晶そのものがとても良い、ということです。基本的にその質は、研磨等のダメージを受けていないので、研磨後のシリコンウェハーから見ると、結晶性面でかなり有利と言えます。
さらに結晶性という観点から見ると、高集積のメモリへのエピタキシャル結晶への応用が見られます。近年はメモリの高集積化が進んでいますが、ゲート酸化膜という部分は薄膜化してきています。
信頼性を高めるためには、ゲート酸化膜に高い信頼性が必要になります。これまでのチョクラルスキー法で作られたウェハーでは欠陥であるCOP等の欠陥が存在し、ゲート酸化膜の破壊の原因になることがわかっています。メモリについては半導体の記憶とは?を確認ください。
ちなみにCOPとは、単結晶の格子に原子がないことを言います。空格ともいいます。
エピタキシャル結晶にはこのような欠陥が存在しないので、メモリの基板として注目されているのです。
まとめ
エピタキシャルの歴史と特徴について紹介してきました。エピタキシャルは人間でたとえると成熟と言った感じがします。
元のウェハーと同じ特徴を維持しながら、経験を積んだ(抵抗率が違う)、そしてその経験をもとに動きを変えていく、そんな気がします。
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[…] プレーナとは「平に削られた」ことです。つまり表面が平坦な構造をしたセルです。以前にプレーナ型トランジスタで紹介しました。(参照:半導体 エピタキシャルの歴史~シリコンウェハーの作り方) […]