次の日、ママの独り言
その時、ママはハッとして顎に手をあてて考えるポーズをとりました。
ママはウインクした
改めてシリコンとは?
上図に半導体シリコンができあがるまでの最初の段階を示しました。以下に詳細を説明していきます。
珪石
以前もご紹介しましたが、シリコンは地球上で酸素の次に多い元素です。化学記号はSIで、とても酸化しやすい物質なので珪石(SIO2)という酸化物の形で我々の回りにとても多く存在しています。
例えば、土、岩石、砂などにシリコンが含まれています。ここで酸化ということを少し説明しておきましょう。酸化とは酸素を受け取ることをいいます。私たちの回りには酸素が存在しているので、多くの酸化物があります。
金属シリコン
シリコンは地球上に酸化物として存在してますから、シリコンから酸素を取り除かなければなりません。このように物質が酸素を失う反応のことを還元といいます。また今回は直接関係ありませんが水素を失う反応を酸化、逆の反応を還元といいます。
ちょっと話がそれますが、酸化と還元は必ず同時に起きます。これを酸化還元反応と言います。
酸化ケイ素を還元することが半導体製造の第一歩です。具体的には炭素を含んだ材料で高温で加熱します。化学式で書くと以下の反応が起きます
SIO2(酸化ケイ素)+2C(炭素)→SI(シリコン)+2CO(一酸化炭素)
SIO2が酸素を失ってSIになってます。副生成物として一酸化炭素が発生します。ここでできた金属を金属シリコンと呼んでいます。
製造には電気炉が使用され、電気料金がかなりかかります。それゆえ、電気料金の高い国では製造できません。日本では石油危機の時期以降電気料金が値上がりし、撤退しました。現在はアメリカ、ノルウェーや中国などが生産し、それを輸入しています。
三塩化シラン(TCS)
次に金属シリコンを精留してTCSという液体にします。精留という耳慣れない言葉が出てきましたので少し説明します。ただ、精留を知るためにはまず蒸留について知る必要があります。
例として、食塩水は食塩と水の混合物です。これを食塩と水分に分ける作業が蒸留です。具体的には、食塩水は加熱されると水だけが蒸発して食塩はそのまま残ります。蒸発した水を取ってそれを冷やせば水になります。これで食塩と水ができます。
そして精留とは、一旦凝縮した液体を蒸気にさらして蒸留を繰り返すことを言います。これによりより蒸留の精度があがっていきます。
半導体製造の場合、さきほどの金属シリコンと塩酸を混ぜます。その時の反応式が以下です。
SI+3HCL→SIHCL3+H2(水素)
SIHCL3は、TCSというものと同じです。(トリクロロシラン)TCSについては以前紹介しています。危険な物質です。(参照:半導体製造には危険がいっぱい)
最初にできたTCSにはまだ不純物が多く含まれているため、何度も精留を繰り返して精度をあげいていきます。こうして半導体に使えるようなTCSができます。
多結晶シリコン
次は多結晶シリコンを作ります。実は半導体製造には多結晶ではなく単結晶シリコンが必要です。ただ、いきなり単結晶を作れればそれにこしたことはないのですが、ちょっと難しいのです。まずは多結晶シリコンをつくり、それをもとに単結晶を作っていきます。
結晶とは?
まずは結晶についておさらいしましょう。結晶とは原子や分子などが規則正しく並んでいる固体のことです。そして多結晶とは単結晶の集まったものです。
ただ単に単結晶が集まったものが多結晶ならば、なぜ単結晶が必要なのか、わかりませんよね。実は原子や分子には、決まった向きがあります。固体なので軸が3つ(三次元)あります。一般的にX,Y,Zという軸です。
この小さな単結晶の軸の向きがバラバラな集まりが多結晶です。
例えば、自然界にある単結晶の代表はダイヤモンドやサファイアなど透明に見えるものは単結晶です。ところが、多結晶になると光が散乱されるため透明にはなりません。先ほどお話した軸がずれているからですね。
なんとなくイメージできた方も多いと思いますが、ダイヤで輝きのないものはダイヤの特徴をすべて生かしているとは言えません。同様に半導体の場合も多結晶よりも単結晶の方がその特徴を発揮できる、ということになります。
では単結晶が半導体には必須であるのはなぜなのか?優れた半導体を作るためには、電子の動きをコントロールが重要です。そのためには電子移動の障害物が少ないことが求められます。多結晶の状態では、軸の向きが一定ではないので、電子は自由には動けません。
そのため、まずは単結晶である必要があるのです。
シリコン多結晶
結晶について理解できたところで本題に入ります。
あらかじめシリコン棒を設置した炉の中にTCSとH2を混ぜて加熱します。ある温度まで上がると、TCSが分解してシリコンがシリコン棒に析出してきます。この反応を長時間続けることでシリコン棒は太り続けます。これが多結晶シリコンです。
反応式はSIHCL3+H2→SI+3HCLです。
HCLは塩化水素です。このガスも危険なガスです。(参照:半導体製造には危険がいっぱい)
半導体用シリコン単結晶
さていよいよ次は単結晶にしていきます。単結晶を作る上で大事なことは、物質内の原子は温度が高ければ、動きが活発になり、低いとゆっくりとなり、規則的な配列にそろっていく、ということです。私たちも寒いと動きが鈍りますよね。
原子を整列させるためには、整列させる前に自由に動けるようにしておき、少しずつ狙った位置と向きに原子が配列されるようにしていく、とういう方法をとります。具体的には温度を上げて動きを活発にしたあとにゆっくりと冷ましていくことになります。
そのためにいくつかの方法がありますがここでは二つ紹介します。一つ目はフロートゾーン(フローティングゾーン)法、もうひとつはチョクラルスキー法です。それぞれ略してFZ法、CZ法といいます。
以下に二つの方法の比較表を示します。
1.FZ法
上図にFZ法の概略図を示しました。
棒状の多結晶シリコンを垂直に保持し、一部を加熱コイルで溶かしていく方法です。溶けている部分を種結晶と呼ばれる単結晶側から多結晶側に移動させていくと、溶けた多結晶が固まるときに種結晶と同じ単結晶へと変わっていきます。
溶けている部分は何も支えるものがなく、表面張力によって支えられています。
図をみればおわかりのように結晶部分には何もふれていないので余計なもの(不純物)が結晶内に溶けこむことはほぼありません。ですから純度があがります。純粋に単結晶シリコンだけになり、高い抵抗率が得られます。
弱点としてはのちにシリコンウェハーとして加工された際に、微小部分の抵抗率のばらつきが大きくなること、重力の影響を受けるため、大口径が作りにくいということが挙げられます。
2.CZ法
CZ法は1916年にチョクラルスキーというポーランドの学者が提唱しました。CZとはチョクラルスキーさんの名前の最初の頭文字をとってつけられました。この方法は最初金属の結晶化率を測定するために使われていました。
これを半導体製造に使えるようにしたのは、ベル研究所です。最初はゲルマニウムで、次にシリコンで使われるようになりました。
CZ法には石英坩堝(るつぼ)というものが使われます。この場合の坩堝とは、熱気が充満している状態のことです。「人種のるつぼ」という言い方もあり、様々なものが混ざっている状態のことをさすこともあります。半導体における坩堝とは、耐熱容器のようなものと考えて下さい。
石英坩堝ですから石英でできています。石英は、シリコンと酸素からできています。化学式はSIO2です。図を見ていただければお分かりのように、石英坩堝とシリコンが接触しています。
ヒーターに囲まれた石英坩堝の中に多結晶シリコンを入れます。種結晶をセットし、温度を上げていくと多結晶シリコンが溶け出し、種結晶をゆっくりと引きあげると種結晶と同じ単結晶が成長していきます。
この時、P型、N型を決めるための不純物を混ぜることによって抵抗率を決めていきます。
また、先ほど紹介したように酸素はシリコンに対し影響を与えます。坩堝の中はにはシリコンには影響を与えないアルゴンというガスを充満させて、酸素を追い出しておきます。
多結晶シリコンが融解するときに石英の成分である酸素が溶け込んでしまいます。酸素はシリコンの抵抗率に影響を与えます。ですからFZ法に比べるとどうしても純度が下がります。
しかしながら、長所として、大型の結晶が作りやすく、大量に作れる、またシリコンウェハーに加工後には抵抗率のばらつきが少ない、という長所があります。
シリコンはコスト上の問題から、大口径が必要になったことは以前述べました。(参照:半導体の素)それゆえ、現在ほとんどがこのCZ法によって単結晶が作られています。
まとめ
私たちの回りに当たり前に存在し、支えてくれる大地。そこに科学技術発展のための元素が含まれている、ってなんだか不思議な感じがしませんか。私たち人類が今のように半導体を発展させるのは、地球に生まれたときから決まっていたのかもしれません。
しかし、私たちが生きていくのに必要不可欠な酸素が悪者になってしまう、というのもなにかの暗示にも思えてしまう。
産業革命以降、化学技術は目覚ましい発展を遂げています。その前の100年とその後の100年には生活様式や人々の暮らしがおそろしいくらい変化しています。歴史的にみるとかなりの急変化です。
何事もそうですが、急な変化が良い結果を生むことは多くありません。今回紹介した単結晶を作る工程でも急に冷却すると望んだ単結晶ができないように、急な変化は人類に幸せをもたらすのか、と考えてしまいます。
セミオは手を振って出口に向かい、ママは微笑みながら、セミオに手を振った。
「カランコロン」
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[…] しかし、生産されたすべてのウェハーがそのまま半導体になっていくわけではありません。半導体が要求するスペックは多種多様で、CZ法でできた結晶にはない特性を必要とするものもあります。(参照:シリコンへの道) […]
[…] 以前紹介したシリコンのインゴットのお話がありましたが、(参照:シリコンへの道)それをスライスしてシリコンウェハーを作っていきます。 […]
[…] つまり空気中の水素濃度が4%以下もしくは75%以上であれば、爆発は起きない、という理屈になります。半導体製造の場合は、以前紹介した石英坩堝(参照:シリコンへの道)などは空気を追い出すため、不活性ガスで坩堝内を充填させてから(このように入れ替えることを置換といいます)水素を導入します。 […]