前回はエピタキシャルの品質について,代表的なものが五つあって、そのうちの「結晶欠陥」についての紹介でした。エピタキシャルは結晶が成長する工程なのでやはり結晶欠陥が主な品質エラーになります。
ママは、難しい顔をしています。
ママに任せておくと別の話になりそうなので、早くセミオ君か、ミツオ君が来ることを祈ります。
エピタキシャルの品質 つづき
「カラン、コロン」
1.結晶欠陥 |
2.不純物汚染(金属汚染) |
3.オートドーピング |
4.パターン変形 |
5.その他 |
不純物汚染(金属汚染)
不純物汚染とはいったい何か?ここでの不純物とは、以前紹介した不純物(ドーパント類)とは性質が違います。(参照:半導体にも積極的、消極的がある?)
このときの不純物は必要なもので、コントロールする不純物です。しかし今回お話するのはまさに不要な不純物なのです。
エピタキシャル工程でできるウェハーは結晶成長直後には自然酸化膜のような表面を守ってくれるものはありません。(仮にあってもとても薄い)これはすなわちなんでも取り込みやすい状態と言えます。ですから慎重に扱う必要があります。
しかし、いくら慎重に扱っても人が扱う以上どうしてもなにかに汚染されることがあります。また、エピタキシャル反応中にガス内部に不純物が紛れ込むことがあります。
とは言ってもガスの純度は保障されており、普通に考えればそんなことは起きません。しかし、金属、特にデバイスに大きな影響を与える重金属は入り込んでしまう可能性が高いのです。その原因は一言でいうと腐食するからです。
金属が腐食する(錆びる)とは?
それでは腐食するということについて少し紹介していきます。腐食するということは
金属がそれを取り囲む環境物質との間の化学反応もしくは電気化学反応によって消耗する現象を通常「腐食」と呼んでいます。
さびのおはなし増補版 増子 昇著 1990年3月 日本規格協会
そして腐食してできたものを錆と呼んでいます。錆びそのものが発生しても、化学的に安定しているため、パーティクルとして品質に影響を与えますが、直接金属汚染の原因になるとは考えにくいです。
しかし、もし錆びに塩酸が触れてしまうとどうなるか、を考えてみます。鉄を例にとって考えてみると錆びた鉄の化学式はFeO、Fe2O3、Fe3O4などが存在します。それらが塩酸に触れると水と塩化鉄ができます。(ただし、強い不働態の性質があるので、Fe3O4はほとんど反応しません。不働態とは、金属の腐食に対抗するようにできる酸化被膜のこと)
錆びが塩酸に触れると起きる反応中にイオン化したFeが配管内に存在することが考えられます。さらに生成された塩化鉄はやはり塩酸に溶けます。この場合溶けるとは、イオンに分かれることですのでこの場合もFeのイオンが存在することになります。
仮に錆びが存在し、塩化水素が直近にあり、かつ、水分があると塩酸が生成され、水と塩化鉄ができる確率は極めて高いことになり、さらに水分が供給されるためこの反応は促進されていくことになります。
ステンレスが錆びにくいのは?
以前に重金属汚染について紹介しましたが(参照:デジカメのフィルムとは?)その原因の一つとしてエピタキシャル製造装置には多くの金属が使われていることが原因として考えられています。
エピタキシャル製造装置に使われる金属はステンレスが主です。ステンレスとはその名の通り錆の少ない金属、つまりなかなか錆びない金属なのです。
ステンレスの組成は種類(304、316など)にもよりますが、主に鉄で、他にクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)などが含まれています。
それぞれの元素を見ていきましょう。まず鉄ですが、皆さん名前はよくご存じの金属ですよね。しかしその性質については、知らない方も多いと思います。鉄はめったに自然の状態で金属として見つかることはありません。ほとんどが鉄鉱石として存在しています。
鉄鉱石とは鉄が酸化(酸素と結びつくこと)した状態です。これは鉄がとても酸化しやすい性質がありそのまま放置すると酸化してしまう、ということです。その鉄にクロムを添付します。
次にクロムです。クロムはクロムメッキという言葉でよく知られています。これは溶液中で電気分解で行って作られるのですが、光沢がよく、摩擦や腐食に強いといった特徴があります。鉄にクロムを添加することにより酸化しにくくなります。
なぜクロムを添加すると錆びにくくなるかというと、仮に被膜が破れてもステンレス中のクロムが酸素や水と反応し、再び被膜を形成するからです。
モリブデンは高融点の性質を利用して電子管の陽極に使用されています。また、そのほとんどが合金として活用されている金属です。モリブデンを添加することにより、不働態被膜を強化することができます。
モリブデンは不働態膜が傷ついたときにその場所のクロム濃度を高めて被膜の修正に一役買うのです。直接不働態膜を形成するわけではなく、縁の下の力持ちといったところでしょうか。
ニッケルもまたメッキでよく使用されている金属です。用途としては他に電池の材料にも使われていますね。そしてニッケル自体腐食に強いという特徴があります。
マンガンは空気中ですぐに酸化されますが、ステンレスの生産には必須の元素で機械的衝撃や摩耗に強いものを作るのにどうしても欠かせません。
エピタキシャル成長装置でなにが起きているか
エピタキシャル成長には非常に反応性が高いガスつまりHCL、SIHCL3など’CL’を含むガスが使われます。ガスだけでなく、結晶成長中にできてしまう、副生成物にも’CL’の成分があります。
副生成物はメンテナンスの際にどうしても空気、もしくは水に触れてしまいます。そうすると、さすがのステンレスの表面も腐食が始まってしまいます。CL’の成分は水分に容易に反応し、塩酸を生成するのです。
ただ、それだけであれば、エピタキシャル反応を繰り返して、エピ膜を反応室内につけていけば、金属汚染は防げます。しかし、漏れがあれば、いつまでたっても金属汚染はなくならず、目指す製品はつくれないことになります。
配管、エピタキシャル成長のチャンバー内に水分があるとたちまち上記のようなことが起きて金属汚染というエピタキシャル品質の重大な欠陥になるわけです。
結果、結晶中に重金属の汚染が広がってしまう、ということになるのです。
オートドーピング
エピタキシャル結晶成長工程で、抵抗率を制御するために重要な項目としてオートドーピングというのがあります。オートドーピングはプライムウェハーの抵抗率が低い(不純物濃度が高い、すなわちボロンやリンなどの濃度が高い)場合により顕著に見られます。
エピタキシャル結晶内でのドーピングの領域を下図に示します。
基板とは、エピタキシャル結晶を作るウェハーです。ドーピング領域とはエピタキシャル成長時に不純物を添加してシリコン内の抵抗値をコントロールしていくための領域です。
オートドープのある状態で、表面の抵抗率だけで製品を作っていくと後の工程でとんでもないことになります。デバイスとして最終的に使用していくには、エピ層全体の抵抗率が望まれた状態でなければならないからです。
上図のようにオートドープの領域は、ドーピング領域よりも下層にあります。結果、抵抗率の分布(ウェハー内での抵抗率にバラツキが少ないこと)に影響が出たり、値が変わってきてしまいます。
外方拡散領域とは、ウェハー内の原子が、熱をかけることにより、ウェハー外に飛び出していく現象であり、この場合は基板内に拡散されていた不純物がウェハーを熱したことにより飛び出してしまうことを言います。(参照:半導体 ウェハーの作り方3.1 熱拡散)
上図のようにオートドーピングが発生します。特にウェハー側面とウェハーの裏面のエピタキシャル結晶成長をしない部分から反応ガスとして発生し、ドーパントとしてウェハー表面に送られてしまいます。
仮に拡散層がない場合でも低抵抗の物を使用すれば、ウェハーの周辺部が中心部よりも多く不純物を取り込んでしまうという現象も起きます。
また、ドーパントの種類によっても、起こりやすさが違っています。大きい順にリン、ヒ素、ボロン、アンチモンです。
オートドーピングを防ぐために、様々な工夫がされています。まず、ウェハー裏面に酸化膜をつけて裏面および面取り部からの発生を防ぎます。
また、オートドーピングはエピタキシャル成長がトリクロロシランなどのシラン系の塩素化合物を使用して行うため、基板をエッチングするガスが副生成物として存在するため起き、また。1100℃以上に加熱されているために起きます。
そのため、減圧下で行う減圧エピタキシャル成長も行われています。減圧下で行われるエピタキシャル成長は、ジクロロシランを使用しており、比較的低温(1080℃程度)でのエピ結晶が作れます。
また、モノシランガスはCLを含まないため、こちらでのエピタキシャル成長もオートドーピング対策として使われます。(各ガスについては半導体製造には危険がいっぱいを参照ください)
さて、二人に新たな展開ですが・・・。どうなることでしょう
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[…] 発生原因としては、オートドープ(参照:半導体 エピタキシャルの品質 その2)抑制用の裏面の酸化膜のキズが考えられます。防止策としては、シリコンウェハー裏面へのガス回り込みの低減が重要になります。 […]